2013年4月 〜 2015年4月     Vol.9

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ペットと寄り添う社会に  2014.12.20
 
当院の犬の幼稚園でクリスマスパーティを開いた。幼稚園に来る犬たちは社会性があり、他の犬や人とも楽しく過ごすことができる。最初からそうだったわけではない。幼稚園や日常生活で多くの人や犬とふれあいながら社会性を育み、成長していく。人間の子供も学校や地域社会の中で、寛容に受け入れられ、時にはけんかもしながら育つ。残念ながら我が国では犬が入ることができる公共の場はあまり多くない。犬が社会性を磨くためには、教育の機会が必要だ。知らない人や犬と楽しくふれあい良い経験を積み重ねることで、どんな場所でも落ち着いて過ごすことができるようになる。欧米ではホテルやレストランなど公共の場所で落ち着いた犬を目にすることが多い。むろんしつけや飼い主の意識も重要であるが、周囲の人の協力や社会の受け入れ態勢も重要なポイントだ。少子化が進み、高齢者が増えていく今後、我々を元気づけてくれるペットの存在価値はますます高くなるに違いない。実際にペットと暮らす高齢者はそうでない人に比べて病院に行く回数が少ないことや犬とふれあいがハッピーホルモンと言われるオキシトシンの分泌を促すことなど、ペットが人間の心身の健康に役立つことがさまざまな研究調査で明らかとなっている。もちろん飼い主はマナーを守り、子犬期から社会化を心がけ、犬の苦手な人にも配慮する必要がある。犬が社会の一員として認められ、飼い主とともに多くの場所に行くことが出来れば、飼っていない人も犬とのふれあいを楽しめるようになるだろう。 

劣悪環境で育ったチワワ     2014.12.6
 

 

某日、とある自治体の施設に多数のチワワが運び込まれた。飼い主が飼いきれなくなったため、引取り依頼があったのだ。もともと少数であったが数年間に繁殖を繰り返して増えたと見られている。身体に排泄物が付着して強い異臭を放っており、爪もかなり伸びていた。日常のケアが不十分なまま、ひしめき合うように暮らし、ストレスが溜まってケンカをすることも多かったのだろう。目に外傷性と考えられる角膜の白濁がある犬も見られた。また外の世界を見たこともなかったであろう犬たちには何もかもが恐ろしく映ったに違いない。体を寄せ合い、ケージの後ろに隠れてブルブルと震えていた。幸い報告を受けた獣医師会の会員病院など複数の動物病院で手分けして預かってもらえることになり、間もなく手厚い看護を受けることとなった。犬はどのような環境であっても食べ物と水を与えられれば生きて行くことはできるし、繁殖もする。しかし犬が飼い主と良い関係を築き、犬らしく幸せに暮らすためには被毛の手入れはもちろん、飼い主とのふれあいや毎日の運動の機会は欠かせない。また、人間社会に適応し、社会の一員として認められるためには社会化を含む教育も必要である。恐らく閉じ込められて暮らしてきたであろう彼らはこれまで適切な経験をする機会が与えられなかった。そんな彼らにはこれからたっぷり愛情と時間をかけてさまざまなことを根気よく教えていく必要があるだろう。
 

 
  
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先住犬と新入り  2014.11.22
 
すでに犬がいる家庭でもう1頭増やしたいと思っている人もいるだろう。犬は社会性の高い動物なので、一般的には新しい仲間が増えても、受け入れてくれる場合が多い。おもちゃで遊んだり、外出したり、ご褒美を使ったトレーニングを行うなど一緒に楽しめることを見つけると良い。相性が良ければすぐに仲良くなるだろう。犬はもともと群れを作る生き物なので、同種動物と暮らすことは理に適っているし、犬同士で仲良く遊ぶ姿は、見ていて楽しい。ただし、母犬や兄弟犬と早くに引き離されて犬とのふれあいがなく成長すると、犬とうまくコミュニケーションが取れない場合がある。このような犬は新しい犬を受け入れにくいため、できるだけ子犬の時期から他の犬とのふれあいを心がけると良い。先住犬が老犬である場合、新しくやってきた子犬がしつこくちょっかいをかけると疲れてしまうこともある。飼い主が子犬とおもちゃで遊ぶなどして十分な発散を心がけるとともに、老犬が寝ている時には子犬がじゃまをしないようにスペースを分けるなどの配慮が必要である。時には同居犬同士がライバル意識を感じて競いあう場合もある。同じ犬種や同じ体格で同性の場合は決着がつきにくく、ケンカが長引くこともある。特に性成熟した雄犬同士はケンカになりやすいので、ケンカになる前に、早めに去勢手術をすると良い。このような組み合わせでなくとも、エネルギー発散が不十分だとケンカが起こりやすいので、日頃からしっかり運動をさせ、おもちゃで遊ぶなどストレス発散を心がけてほしい。
  

 

子犬、まず安心させて  2014.11.8
 
これから子犬を迎えようとしている人や、子犬を飼いはじめたばかりの人にぜひ知ってもらいたいことがある。子犬が家にやってくると平和だった毎日は一変する。床の上の排泄物に気づかず踏んでしまったり、携帯電話が歯型がついていたり、朝5時に子犬の鳴き声で起こされたりと次々に想定外の事件が起こる。言葉で思いを伝えられないため、育児ノイローゼになる人や、つい手をあげてしまう人もいる。でも子犬の身になって考えてみてほしい。2~3か月齢の子犬は人間で言えば2~3歳の幼児。突然母犬や兄弟犬から引き離されてしばらくは精神的にも肉体的にも不安定である。叱られても飼い主の意図は理解できなし、飼い主を怖がるようになったり、体調を崩したりすることもある。犬のしつけで最も効果的なのは適切な行動をするようにうまく導き、褒めてやることだ。してほしくないことは出来ないように環境整備を行う。たとえ思うようにいかなくてもいらだちを子犬にぶつけてはいけない。絶対に叩いたりしないでほしい。体罰は犬と飼い主の関係を崩壊させてしまう。子犬を叱るとしても新しい環境に慣れ、飼い主と信頼関係が出来上がった後にしてほしい。一番最初に教えてあげてほしいことは「ここは安全な場所、飼い主はやさしいお母さんやお父さん」ということ。しつけ方がわからない場合はパピークラスを行っている動物病院のスタッフに聞けば良いアドバイスをもらえるだろう。子犬と良い関係が築ければ、さまざまな出来事も良い思い出となり、幸せな毎日が訪れる。
 
 

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動物の思い考えて  2014.10.25
 
アニマルウェルフェアという言葉を聞いたことがあるだろうか。動物福祉と訳されるが、一般的な福祉とは意味合いが異なる。語源的には動物(アニマル)の良い(ウェル)生活(フェア)という意味であり、動物福祉の5原則すなわち①飢え、乾きからの自由、②不快な環境からの自由、③痛み、怪我、病気からの自由、④恐怖、苦悩からの自由、⑤正常な行動をする自由ーが守られた状態で動物が生活していることを指す。豊かな感情を有する動物に対して生きている間の生活の質に配慮するのは倫理であるという考え方が含まれる。人間はさまざまな動物を利用して生きており、それを否定すると生活は成り立たない。動物の利用にあたっては、生きている間の彼らの生活の質を高め、できるだけ苦痛の少ない方法を用いるべきだという考え方である。私の知る限りで最も配慮に欠ける方法で利用されているのが毛皮になる動物たちだ。絶命前に毛皮を剥ぐなど非常に苦痛の大きい方法がとられている。日本は毛皮の輸入大国であり、日本に輸出するために多くの動物が犠牲になっている。これらの商品を買う行為こそが、犠牲になる動物を増やしている。動物が好きだという人はそのような毛皮製品を買わないでほしい。毛皮はコートだけではなく、靴やバックちょっとしたアクセサリーなど多くのものに使われている。買う前にNPO法人 地球生物会議(ALIVE)のホームページ(http://www.alive-net.net/fur/index.html)を見てほしい。そして身近な人にそれを伝えてほしい。

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