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 2013年4月 〜 2015年4月     Vol.2

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犬にも〝衣〟替え  2013.8.17
 
最近街中で見かける犬は洋服を着ていたり、毛をカットしていることが多い。犬には必要ないという人もいるが、私は犬の身になって考えてほしいと思う。洋服やカットは飼い主の楽しみであるが、衛生管理(排せつ物や分泌物の付着を防ぐ)や体温調整という大切な目的がある。日本には世界中から輸入された多くの犬種がいる。各犬種の被毛は、原産地の気候に合うようにできており、必ずしも日本の気候に合うものではない。特に日本には四季があり、その温度差に適応するために人も夏と冬では全く違う服装をする。犬もこの気温の変化を考えてカットしたり、洋服を着せたりすることは理にかなっているのだ。ところが真冬なのに毛を短くカットされて震えていたり、真夏に全身を覆うような洋服を着せられてあえいでいる犬がいる。しかも犬は洋服やカットの目的を理解することができず、犬の脚の可動域(横方向に広げることができない)を考えずに引っ張ったり、無理やり押さえつけて洋服を着せると洋服を見ただけで逃げ出したり、かみついたりするようになる。子犬の時から好物を使いながら、少しずつ体を触ることや洋服着せることに慣らしてほしい。6月8日の本欄で紹介した神戸市動物管理センターから引き取った2匹の猫にお陰さまで新しい家族が見つかりました。新聞を読んだ方からも希望者が現われました。結局、この春からこれまでに合わせて14匹の子猫と東日本大震災の被災犬を含む3匹の犬に里親が見つかり、当院を巣立ちました。
 
 

毛皮で裸足だから  2013.8.3
 
夏本番、当院でもペットホテルの予約がいっぱいになるが、長時間、ケージで過ごすのが苦手な犬には、他の犬と一緒に遊びながら過ごすハッピーステイというシステムをとっいる。仲間同士のふれあいは社会性のある犬にとっては最高の時間で、ハッピーステイに来た犬は、しっぽをちぎれんばかりに振り、スタッフに走り寄る。その姿を飼い主も安心して出かけることができる。残念ながら他の犬や人が苦手な犬ではそうはいかない。一方、飼い主とのお出かけも犬にとっては至福の時間だ。ただし夏場の外出は注意が必要だ。犬は年中毛皮をまとっている上、足の裏以外は汗をかかないことから人よりもはるかに熱中症にかかりやすい。フレンチブルドッグなどの鼻の短い犬種や肥満気味の犬、心臓病などの病気を持つ犬や高齢犬ではさらに注意が必要だ。犬だけを車に残すのはもってのほか、エンジンをかけていても必ず誰かそばについておくべきだ。散歩は日陰を選び、必ず地面に手を触れて熱くないか確認を。犬は靴を履いていないし、体が低い位置にあるため地面の温度の影響を強く受ける。常に水を一緒に持ち歩き、こまめな水分補給をしてほしい。移動の際にキャリーケースなどに入れる場合に冷却と飲み水を兼ねて水を凍らせたペットボトルをタオルで包んでいれておくと便利。普段より呼吸が荒く、体温が上がっている様子ならすぐに水をかけて、うちわであおぐなどして体温を下げ、動物病院を受診してほしい。
 

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病院嫌いを防ぐには   2013.7.20

 
子犬を対象にした教室、パピークラスは犬の社会化に有効だが、それ以外にも学ぶことは多い。かみつきの自制を教えることは非常に大切だし、ブラッシング、歯磨きなどの日常のケアを快く受け入れるように教育することも重要だ。トイレのしつけやいたずらに対する適切な対処法も学ぶことができる。子犬の時期に教育しておけば、将来の深刻な問題行動を予防できるため、私はパピークラスで行う子犬教育を「こころのワクチン」と呼んでいる。動物病院のパピークラスに参加することの最大の利点は、病院やそのスタッフに慣れさせることだできることだ。犬はワクチン接種やフィラリア予防などの健康管理が自分のためであることが理解できない。知らない場所に連れて行かれ、見ず知らずの人間(獣医師や動物看護師)に押さえつけられたり、注射されたりすれば、動物病院やそのスタッフを怖がるようになるのも無理もない。我々もいきなり知らない場所に連れて行かれ、見ず知らずの人に押さえつけられたり、注射をされたら恐ろしくてたまらないはずである。どんなに元気な犬もやがて年をとり病気になることがある。将来、犬を動物病院に連れて行った時、子犬期に怖い体験を繰り返していた場合とパピークラスで楽しい経験をしていたのではストレスは大きく異なる。病気の犬を嫌がる病院に連れて行くのは飼い主にとっても心が痛むことだ。当院ではパピークラスを行うようになって十数年になるが、病院に喜んで来る犬が増えたのを実感している。
 

 

幼いうちに「社会化」を   2013.7.6
 
犬と猫が仲良く暮らしていることもあれば、犬同士や猫同士でさえ仲良くできないこともある。その秘密は発達ステージで社会化期と呼ばれる時期にある。社会化期は本来その動物の両親や兄弟、同じ群れの仲間に対する愛着が形成される時期で、犬は生後3週~3カ月ぐらい、猫は生後2週~2カ月ぐらいをいう。彼らの感覚器や運動機能が急速に発達する時期で、脳組織の発達時期にも一致する。見知らぬ対象にも好奇心旺盛に近づいたり、最初は怖がっていたものでも短時間のうちに慣れることができる。さらに周囲の環境にも非常に柔軟に適応できるため、この時期に人間社会で遭遇する可能性のあるさまざまなものに慣らし、プラスのイメージを作っておくことが大切だ。子犬が社会化期に、犬と触れ合う機会がないまま成長すると、犬とうまく付き合えなくなってしまう。猫も同様だ。哺乳類にとって同種動物との触れ合いはその動物種らしい幸せな時間でもある。同種動物と触れ合う機会を十分与え、その後もできるだけ継続してほしい。また人間社会の一員として暮らす犬や猫には人との社会化は最も重要である。最近、獣医療でも心の健康に関しての理解が深まり、子犬の社会化のためにパピークラスを行う動物病院が増えている。パピークラスでは同じような月齢の子犬を遊ばせる時間や参加者同士で互いの子犬に好物を与える時間があり、子犬の社会化に最適だ。子犬を飼ったら参加をおすすめする。
 

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野良猫に餌を与えるなら 2013.6.22
 
今回も野良猫問題について書く。毎年膨大な数の野良猫が生まれるが、我々が救うことができるのはほんの一握りにすぎない。やはり、あふれる水をくみ出すよりも蛇口を閉める工夫が必要だ。のんびりと平和そうな野良猫の生活は意外に厳しく、暑さや寒さといった環境のストレスや猫同士の抗争、交通事故、猫エイズなど猫特有の伝染病も多い。野良猫の寿命はわずか4、5年といわれ、短い生涯で必死で子孫を残す。動物管理センターに持ち込まれる子猫の多くはそんな野良猫の生んだ子だ。子孫を残せるのは餌を与える人がいるからだ。空腹の野良猫を見かねて食べ物を与えるのは心優しい行為だが、そのために不幸な猫が増え、その命を絶たねばならない立場の人がいることも事実だ。殺処分されるために生まれてくる命を増やしてはいけない。不妊去勢手術が必要だ。近隣の迷惑にならないよう排せつ物の処理や食べ残しの清掃も必要である。それが野良猫に餌を与えることに伴う責任だ。最近少しずつ広がっている住民の地域猫活動は、野良猫に餌を与える代わりに、不妊去勢手術や餌場の清掃、排せつ物の処理をし、個体識別をして健康管理も行う活動だ。子猫には里親を探し、成猫は不妊去勢手術を行ってその印に耳をカットするなどして手術済みであることがわかるようにする。地域猫活動がうまく機能している地域では、殺処分数や近隣住民からの苦情は激減しているという。

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