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 2013年4月 〜 2015年4月     Vol.7

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野生動物  飼う前に  2014.8.2
 
ペットとして飼育されている動物の中には、野生動物もいる。犬や猫などのように家畜化された動物は、飼い主が適切な生活環境を与え、愛情を持って接すれば、人間社会でも幸せに暮らすことができる。一方、野生動物は、彼らにとって必要な生活環境を我々人間社会では提供することは難しい。人間が飼育する動物には5つの自由が保障さ
れなければならない。その自由とは、
①不適切な栄養管理(飢え、乾きなど)からの自由
②不快な環境(汚れた場所など)からの自由
③肉体的苦痛(病気・怪我など)からの自由
④精神的苦痛(恐怖・不安など)からの自由
⑤正常な行動をする自由
の5項目である。正常な行動とはその動物種らしい自然な行動のことを指す。野性動物に自然な行動をさせてやるためには彼らが自然界で生活している環境を再現する必要がある。最近、動物園などでは飼育環境をできるだけ自然に近い形にする環境エンリッチメントの試みがされているが、一般家庭では難しい。また彼らの病気や行動問題についても不明な点が多く、身体的苦痛や精神的苦痛の評価も難しい。さらに人と共通の感染症などについての研究も十分行われておらず、人間が飼育することの安全性についても未知な部分が多い。日本は野生生物の輸入大国と言われ、野生動物も多く輸入されている。またこれらの動物が逃げ出したり、捨てられたりして日本の生態系にも大きな被害が出ている。野生動物をペットにすることの是非について、今一度考えてほしい。
 

中毒因子  家にあれこれ  2014.7.21
 
人の食べ物の中にはペットに有害なものもある。有名なところではタマネギ中毒。タマネギ、ネギ、ニラ、ニンニクなどのネギ類は犬や猫が食べると溶血性貧血を起こす場合がある。調理をしたものであっても毒性はなくならないので注意が必要だ。すき焼きや味噌汁などタマネギを使った料理の汁には中毒を起こす成分が溶け込んでいるため、タマネギを取り除いたとしても与えるべきではない。通常は少量であれば問題ないが、感受性には個体差
があり、どの程度なら大丈夫とは言えない。チョコレートやココアなどカカオ類も中毒を起こす。症状は興奮、痙攣、呼吸困難など。症状の強さは食べた量に比例し、特にビターチョコレートなどカカオの含有率が高いものでは中毒症状が強く出る。飼い主がテーブルなどに置いて外出し、帰ってくると犬が食べていたという例は多い。死に至る場合もあるため、チョコレートの管理は慎重にしてほしい。人の内服薬等も犬が誤食するケースが多い。小型犬は人の20分の1ぐらいの体重であるため、かなりの過剰投与となり、中毒を起こすことが少なくない。薬は必ずペッとの届かない場所に管理してほしい。その他ブドウやレーズン、マカデミアナッツ、アボカド、キシリトール入りのガムなども注意が必要だ。食べてしまった場合は、すぐに吐かせることで中毒を防げる。時間が経過すると吸収されてしまうが、それほど時間が経っていないようならまずは動物病院での催吐処置をお勧めする。
 
  

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恐怖心 徐々に慣らして  2014.7.5
 
犬の心の病の中でもこれからの季節、特に問題となるのが恐怖症だ。雷や人が美しいと感じる花火も、犬には理解できない。これらの大きな音には本能的に危険を感じる。恐怖症の症状は震えたり、呼吸が早くなったり、よだれを出したり、ウロウロと動き回ったり、壁やドアなどを掘る真似をするなどさまざまだ。散歩中に花火や雷の音を聞いてパニックになり、リードを切って逃げだしてしまうこともある。留守番中に雷が鳴るとその音におびえ、家から飛び出そうとして壁やドアを破壊したり、逃亡してしまった例もある。恐怖体験を繰り返すと症状が悪化するので治療が必要だ。軽症例では雷や花火の音を聞かせながら楽しく遊んだり、好物を与えるなど良いイメージに変えていく。重症例では不安を取り除くために薬物を使う。特定のタイプの人(たとえば髭のある男性、サングラスをかけた人など)や場所(動物病院、ペットサロンなど)を怖がる犬もいる。本能的に恐怖を感じるケースもあるが、過去に嫌な体験をしたという場合も少なくない。犬には予防接種や病気の治療も自分のためだという理解はないので当然かもしれない。この場合も対処方法は同様で、好物を使いながら少しずつ慣らす方法をとる。子犬の時期からできるだけいろいろな場所に連れて行き、楽しい経験をさせて、十分社会化しておくことも大切だ。将来必ず行くことになる動物病院にはお腹を空かせて好物を持参し、そこで与えてもらうようにする。動物病院で実施しているパピークラスがあれば参加することをお勧めする。
 

刺激与え 生き生きと   2014.6.21
 
認知症は犬にもあり、「高齢性認知機能不全」と呼ばれる。症状は、見当識障害すなわち、自分自身が置かれている状況などが正しく認識できない状態になり、迷子になったり、ドアの位置を間違えたりする。また睡眠と覚醒の周期が変化し、日中寝ている時間が増え、夜間に起きて徘徊したり、鳴いたりする。トイレ以外の場所で排泄したり、「おすわり」や「おいで」など教えたことができなくなる。活動性も変化し、不活発となることが多いが、逆に落ち着かずうろうろすることもある。人や他の動物との関わり合いが変化し、同居犬と遊ばなくなったり飼い主に甘えなくなることもあれば、逆に過剰に甘えるようになったり、留守番が出来なくなったりすることもある。米国での研究によれば、11歳以上の犬の約50%は少なくとも1つの認知機能低下の兆候を示すという。犬が高齢になると外出したり遊ぶ機会が減るが、年をとっても楽しく生き生きと生活させるためにはさまざまな肉体的、精神的刺激が必要だ。他の人や犬と触れ合う機会を持ち、朝夕散歩に出かけるなど、楽しく過ごす時間を持ってほしい。食事も毎回皿で与えるよりは、トレーニングのご褒美として与えたり、転がすとフードが出てくるおもちゃなどで与えたりすると良い。忘れてしまったトイレなどのしつけはもう一度子犬に戻ったつもりでやさしく教えるか、うまくいかない場合にはオムツを使うのも一案だ。これらの変化は単に年のせいだけではなく、背景に医学的な疾患が潜んでいることもある。自分で判断せずに動物病院を受診してほしい。

 
 
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目的ない 繰り返しに注意  2014.6.7
 
犬の心の病の中でも深刻なものの一つに「常同障害」がある。目的のない繰り返し行動と延々と続けて健康や飼い主の生活に支障をきたす。例えば自分のしっぽを追いかけかじる、光や影を追いかける、モノや身体をなめ続けるなど。自分のしっぽをかみちぎってしまうこともある。原因として遺伝と環境の両方が考えられている。環境要因は、長時間ケージに閉じ込めるような飼育や慢性的な不安や葛藤を感じるようなストレスの多い環境など。意には社会性豊かな動物なので他の犬と触れ合うことは良い刺激となり犬の暮らしを豊にする。ただし犬同士の相性が悪い場合は逆にそれがストレスになる場合もある。常同障がいの犬には神経伝達物質(行動を制御する脳内物質)の以上があるため、治療にはそれを調整する薬物を使い、問題行動のきっかけとなるストレスや不安を探り、排除する。例えば、退屈になると体をなめ始めるのであれば、散歩や遊びの時間を増やす。きっかけが排除できないものであれば、薬が効いてきたころから少しづつ慣らし、良いイメージに変えていく。例えば、散歩中に他の犬に会うと自分の尾を追いかけるのであれば、まずは犬に会わない時間帯や場所を選んで散歩する。投薬で落ち着いてきたら、距離を置いて他の犬を見せながら好物を与えるなどして少しずつ慣らす。尾を追いかけそうになったら「お座り」などの合図を出して座らせるなど別の行動を促す。さらに日常生活全般を見直し、ストレスを減らす工夫が必要だ。

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